一般のお客様が知らない、陸運局での手続きの手間と手数料

SNSを見ていると、時折こんな投稿を目にして胸が痛むことがあります。 車検代行手数料、2万円も取られた!ただ車を持って行くだけなのに、車屋はぼったくりだ! ユーザー車検ならもっと安く済むのに、手数料が高すぎる!

一般のお客様からすれば、そう見えてしまうのも無理はないのかもしれません。 明細書に記載された「検査代行費用」や「事務手数料」。 これが単なる「書類を右から左へ流すだけのお金」に見えてしまえば、確かに高く感じるでしょう。

しかし、私たちは胸を張って言わなければなりません。 その費用は、決して「ぼったくり」などではなく、プロが汗をかき、時間を使い、責任を負って動くための、正当な「対価」なのです。

今日は、ブラックボックスになりがちな「陸運局での手続き」のリアルな裏側と、それを安易に値引きすべきではない理由についてお話しします。

陸運局へ行く、という重労働

まず、車検(継続検査)を例に挙げてみましょう。 お客様は「車を預けて、帰ってくる」だけですが、その裏で整備士は工場と陸運局を往復しています。

陸運局は、コンビニのように近所にあるわけではありません。 地域によっては、片道1時間以上かかることもザラです。 移動だけで往復2時間。 さらに、陸運局につけば、そこは「戦場」です。

年度末や繁忙期ともなれば、書類の受付窓口には長蛇の列。 不慣れな一般の方も混じり、窓口は常に殺気立っています。 書類の記入一つ間違えれば、突き返されて最初からやり直し。 重量税の印紙を買い、自賠責保険の手続きをし、膨大な書類の束を抱えて、ようやく検査ラインへと向かいます。

ラインでの緊張と、再検査のリスク

検査ラインに並ぶ。これこそが、最も過酷な時間です。 長い列に並び、少しずつ車を進める。 夏場は灼熱、冬場は極寒のピット内で、エンジンの熱気と排気ガスに包まれながら、順番を待ちます。

そして、いざ検査。 サイドスリップ、スピードメーター、ヘッドライトの光軸、ブレーキ、下回り検査。 最新のテスターを備えた予備検査場であらかじめ調整していても、本番のラインで「×(不合格)」が出ることもあります。

もし不合格になれば、どうなるか。 その場ですぐに修正できる軽微なものならまだしも、部品交換が必要なレベルであれば、一度工場に持ち帰り、修理して、後日「出直し」となります。 そうなれば、もう一日仕事です。 この「一発で通さないといけない」というプレッシャーと、万が一のリスクを背負って、私たちはラインに並んでいるのです。

見えない「時間」を買っている

つまり、代行手数料の1万円や2万円という金額は、単なる「場所代」ではありません。 整備士というプロフェッショナルな人間を、半日、あるいは丸一日拘束する「人件費」であり、確実合格させるための「技術料」なのです。

もし、お客様ご自身でユーザー車検に行かれるとしたらどうでしょうか。 平日に仕事を休み(有給を使い)、慣れない書類作成に四苦八苦し、検査ラインで後ろの車にクラクションを鳴らされながら焦り、もし落ちたらまた別の日に出直す。 その労力とストレス、そして休んだ日の給料を天秤にかけた時、車屋に任せる費用は、決して「高い」ものではないはずです。

私たちは、お客様の代わりに「面倒」と「時間」を背負っているのです。

安易な値引きは、自分の首を絞める

だからこそ、私たち事業者は、この手数料を安易に値引きしてはいけません。 「高いですね…」と言われた時に、「すみません、じゃあ少し引きます」とやってしまうと、それは「今まで不当な利益を乗せていました」と認めることになってしまいます。

そうではなく、きちんと説明するのです。 陸運局へ行くにはこれだけの時間がかかること。 万が一のトラブルにも責任を持って対応していること。 お客様の貴重な平日を潰さないための費用であること。

「ぼったくり」という誤解は、説明不足から生まれます。 私たちがプロとして行っている「見えない仕事」の価値を、堂々と、丁寧に伝えること。 それこそが、お客様との信頼関係を築き、適正な利益を守りながら長く商売を続けていくための、唯一の方法ではないでしょうか。

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