「ガソリンの暫定税率」という言葉。 自動車業界に身を置く私たちにとって、これは単なる政治ニュースではなく、自社の「売上」と「利益」に直結しかねない、極めて重要なキーワードです。
もし仮に、長年議論されてきたこの暫定税率が「廃止」されたら、どうなるか。 「ガソリンが安くなる」それは誰もが知る事実です。しかし、私たち自動車事業者は、その「一歩先」を読む必要があります。
結論から言えば、これは私たち中古車販売・買取ビジネスにとって、近年稀に見る強力な「追い風」となる可能性を秘めています。 それはなぜか。コスト減が消費者の「行動」を変え、最終的に「購買意欲」を刺激するという、明確なシナリオがあるからです。
ステップ1:ガソリン代が安くなる(家計への直接インパクト)
まず、事実の確認です。 私たちが給油するガソリン価格には、ガソリン税(本則税率)に加え、長らく「暫定税率」としてリッターあたり約25円が上乗せされています。(※正確には二重課税の問題などもありますが、ここでは簡略化します)
もし、これが廃止されれば、単純計算でガソリン価格はリッター25円前後、一気に下落します。
これは、消費者の家計にとってどれほどのインパクトでしょうか。 仮に月間100Lのガソリンを消費する家庭(例:通勤と週末の送迎・買い物)であれば、月々2,500円、年間で30,000円の負担が消滅します。 車が生活必需品である地方の世帯や、複数台を所有するファミリー層、あるいは配送などで車を酷使する個人事業主にとっては、それ以上の経済効果が生まれます。
これは、実質的な「可処分所得の増加」であり、「減税」と同じ効果をもたらします。 しかし、その影響は「家計が助かる」だけに留まりません。
ステップ2:外出が増える(心理的ハードルの低下)
ガソリン価格の高騰は、私たちの「心」にも影響を与えます。 「今週末は遠出したいけど、ガソリン代がもったいない」 「なるべく車を使わないように、自転車で買い物に行こう」
こうした「ガソリン代を気にする」という心理的なブレーキが、車の利用頻度を無意識のうちに下げていました。
しかし、リッター25円の値下げが実現すれば、この心理的ハードルは劇的に下がります。 「安くなったから、久しぶりに隣県のあのアウトレットまでドライブしよう」 「子供を連れて、少し遠くの大きな公園まで行ってみようか」 「燃費を気にせず、エアコンをしっかり使って快適に運転しよう」
つまり、「車に乗ること」へのためらいがなくなり、行動がアクティブになるのです。 これまで「維持費のかかるお荷物」として、ネガティブな側面ばかりが注目されがちだった車が、再び「生活を豊かにし、行動範囲を広げてくれる便利な道具」として、ポジティブに再評価される瞬間です。
そして、この「行動の変化」こそが、私たちのビジネスへの「追い風」の正体です。
ステップ3:車が欲しくなる(「車を使う」から「車を換える」へ)
車に乗る機会が増えると、何が起きるか。 それは、「今乗っている車への“不満”の顕在化」です。
「久しぶりに家族5人で遠出したら、今のコンパクトカーじゃ狭すぎて疲れたな…」
「キャンプ道具を積んだら、荷室がパンパンだ。もっと積めるSUVが羨ましい」
「ガソリンが安くなったとはいえ、やっぱり今の旧型車の燃費は悪すぎる。ハイブリッドならもっと遠くへ行けるのに…」
「乗らない」時には気にならなかった不満や、「車は動けばいい」と諦めていた妥協点が、「乗る」頻度が増えることで、明確な「買い替え動機」へと変化するのです。
さらに、これまで「車は欲しいけれど、ガソリン代というランニングコストが怖くて購入を躊躇していた層」、特に20代・30代前半の若年層や、セカンドカーを検討する層の背中を、強く押すことになります。
ガソリン代という「最大の変動費」への不安が和らぐことで、「車を所有する」という選択肢そのもののハードルが下がるのです。
私たち事業者が、今から準備すべきこと
この「追い風」は、ただ待っているだけでは掴めません。 もし暫定税率廃止が現実のものとなった瞬間にスタートダッシュを切れるよう、私たちは「帆」を準備しておく必要があります。
- レジャー・遠出を喚起する車種の強化 : 消費者の「外出したい」というマインドセットに応えるため、「ミニバン」「SUV」「ステーションワゴン」といった、積載性や居住性に優れる車種の仕入れ・展示を強化する。
- 「燃費」をフックにした買い替え提案の準備 : 「ガソリン安の今こそ、さらに燃費の良いハイブリッド車に乗り換えて、浮いたコストで旅行に行きませんか?」という、具体的なシミュレーションを盛り込んだ接客トークを用意する。
- 「維持費低下」を訴求する広告戦略 : 「ガソリン代が下がった今、月々の負担はこれだけです!」と、ランニングコストの不安を払拭するような広告(Web、チラシ)のクリエイティブを準備しておく。
ガソリンの暫定税率廃止は、単なる燃料値下げニュースではありません。 それは、消費者の「車との付き合い方」を根本から変え、冷え込んでいた市場マインドを再燃させる可能性を秘めた、最大のビジネスチャンスです。
この「風向き」を敏感に察知し、的確な準備をすること。 それこそが、これからの時代を勝ち抜くコンサルティングパートナーであり、事業者様の姿であると、私たちCAR GATEは考えます。
CAR GATE 一同

